投資本・トレード本

[レビュー/要約] ラルフ・ビンスの資金管理大全

本書「ラルフ・ビンスの資金管理大全」はトレードにおいていかにして「ドローダウンが発生する確率を一定割合に抑えながら, リターンを最大化するか」を数学や統計学を用いて議論した本です.

この本は画期的な本で, 「トレード」「数学」「統計学」「確率論」 という既存の知識を組み合わせて, 「1+1 から 100を作るような過程」を実際に目の前で見せてくれるような本です. トレードに興味がある人にとっていわば常識である「トレード」「数学」「統計学」「確率論」が組み合わされるだけで, これだけのものが, これだけの議論ができるのか, と大きな感動を覚えたのを今でも鮮明に覚えています.

ラルフ・ビンスとは?

「トレードの世界を変えた」ともいわれる数学者. 当時, トレード戦略の重要性が先行していたトレード業界にて, 資金管理の重要性を説き, ヘッジファンド業界を文字通り変えた. 1987年のロビンスカップ(トレードのワールドカップ)で11376%(113.76倍)の驚異的リターンを記録し優勝した伝説のトレーダー, 「ラリー・ウィリアムズ」のコンサルタントを務める. 今でもこの記録は破られておらず, ラリー・ウィリアムズがこの脅威的な記録を残せたのはラルフビンスの存在が非常に大きいと言われている.

ビンスの考え方は今現在多くのヘッジファンド業界でも取り入れられており, 彼がトレード業界に及ぼした影響は計り知れません.

この本の「3本の柱」

この本にて議論されていることを大きく分類すると以下の3点であるといえます.

  • リターンを最大化する方法
  • ドローダウン発生確率の最小化
  • ポートフォリオ全体としてのリターン最大化 /ドローダウンの最小化

リターンを最大化する方法

「どのトレードシステムにも最適なリスク比率がある」, とビンスは述べています. ギャンブルの世界で古くから用いられてきた「最適・f値」がこれにあたります.

「f値」とは「各トレードに口座資金のうち何%をリスクにかけるか」の比率で算出方法としては「ケリーの公式」などが有名です. しかしながら, 利益と損失が固定されているギャンブルとは異なり, トレードの世界ではトレード結果は「確率分布」をなしますので固有の算出方法が必要となります.

リターンを最大化するには, この「f値」のうち最適なものを求める必要があり, これを「オプティマルf」または「最適・f値」と呼びます.

前半部分は主にこれらの詳細な算出方法や,  オプティマルf・幾何学的成長・TWRといった概念の統計学上の性質, 及びそれらを元にしてトレーディングシステムを改善させる具体的方法, トレーディングシステムの優劣の評価方法などを議論しています.

これらの視点は全て非常に画期的で, 目から鱗が出るようなものばかりです.

ドローダウン発生確率の最小化(リスクの最小化)

従来の「現代ポートフォリオ理論」では「リスク」はリターンの標準偏差と定義されますがこれに疑問を抱く人は多いのではないでしょうか.

そもそもとしてこの理論は株式や債券を現物で保有した場合や現金を借り入れた場合のみを考慮しているので, 現実でのトレーディングのように様々な金融商品のロング・ショートを繰り返すような場面で取り入れるのは無理がある上, リスクをリターンの標準偏差と安易に考えるのは現実を全く反映しておらず, あまりにもリスクを過小評価していると言わざるを得ません.

実際にトレードを行う場合のリスクとは「口座資金が減少すること」すなわち「ドローダウンが発生すること」「破産すること」であり, その確率が高いほどリスクが高いと言えるのでしょうか.

この本ではリスクを「破産確率」及び「ドローダウン発生確率」と定義し, それらを算出する方法を議論しています.

ポートフォリオ全体としてのリターン最大化 /ドローダウンの最小化

「リターンの最大化」「リスクの最小化」について触れましたが, これらは一つのトレーディングシステムについて議論する場合になります.

しかしながら実際にトレードを行うときは様々な銘柄に関して多様なトレード戦略を用いてリスクを分散させ, ポートフォリオを組むのが一般的です.

複数のトレード戦略を同時に稼働させる場合には戦略同士の相互関係や保有期間の違い, 銘柄のボラティリティの違いなど様々な問題が生じます.

この本では「レバレッジスペースモデル」としてポートフォリオ構築に関しても上記の概念を取り入れ, 現代ポートフォリオ理論に代わる新たなポートフォリオ構築モデルを提案しています. その中で各戦略の最適ポジション量を議論しその時の「リターンの最大化」「ドローダウンリスクの最小化」を考えなければなりません.

現代ポートフォリオ理論は「机上の空論」であり欠陥だらけですが, 主な欠陥ですと

  • レバレッジを考慮していない
  • 銘柄同士の相関の「変化」を考慮していない(相関は一定ではなく, 危機的なイベントなどの際には相関性が一気に高まる)
  • リスクの定義があまりにも安易

などが挙げられます. 「レバレッジスペースモデル」はこれらをすべて解決するような内容になっています.

改善点

この本は本当に素晴らしいですが, もちろん改善点も挙げられます.

それは, ポートフォリオ構築においてトレード戦略同士の平均保有期間が同様として仮定しており, なおかつ「レバレッジスペースモデル」を使用する際には複数戦略を全く同じ期間で考えなければならないことです.

トレード戦略の分散という観点からも, 短期戦略・中期戦略・長期戦略など保有期間が異なる戦略を組み合わせることが重要ですので, この仮定は非現実的なのかもしれません.

この問題を解決するために当方は独自のアルゴリズムを考案し, 実際のトレーディングにてそれを利用しています.

また, この本で提案されているモデルでは, 「複数の事象が同時に起こる確率」(=同時発生確率)を全て求める必要があります. 実際に4〜5のトレード戦略でポートフォリオを組む場合に全ての同時発生確率を算出することは不可能でしょう.
(2000回の過去トレード履歴がそれぞれの戦略にある場合, 20005 通り全ての確率が必要である上, これらの確率を算出する方法は現実的に存在しません)

こちらの問題に関しても, 独自のアルゴリズムを開発し解決いたしました. 

 

このようにしてこの本の理論を元に自分でプログラミングなどを行い, 結果を分析し, とことん考え抜く姿勢が重要ではないかと思います. この本によってまさにトレーディングの世界が180°変わったといっても過言ではありません. 「14080円」と決して安くはないですが, 10倍以上の価値はあると思います.

   

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